いきなり王子様


そんな思いを強くしながら、早く竜也と会いたい気持ちをどうにか抑え、ようやく迎えた金曜日。

終業後急いで着替えを終えた私は、小ぶりの旅行鞄を抱えてエレベーターで一階へ。

これから竜也の部屋へと向かい、週末を一緒に過ごす。

毎晩電話で話し、ふとした出来事をメールで笑いあい。

急激に高まったお互いの気持ちに折り合いをつけるように平日を過ごしていた。

新商品の開発グループで設計をしている竜也は、仕事に一区切りをつけたのか夕べの声は明るくて、

『ようやく夢にまで図面が出てこなくなった』

と冗談ではないだろう声で呟いていた。

新商品の開発は年単位で極秘に進められる場合もあって、携わるメンバーにとっては心身ともに疲れ果てる覚悟が必要だ。

私自身、新商品の発表があったおとといまでそのプロジェクトについての詳細は何も知らなくて、ましてやそこに竜也が参加しているなんてこと想像もしていなかったけれど。

『新商品のカタログ持って、奈々のご両親に結婚の申し込みに行くから』

きっと、かなりの自信があるんだろう、その新商品。

私の両親を安心させる材料にするらしい。

一方、総務部の真珠と仕事の合間に話をしていると。

『プロジェクトには相模さんも関わっているけど、むしろ新しい才能の発掘に重きを置いていたみたいだね。ここ何年かかけて工場に集められていた若手の精鋭たちが開発のリーダーだったのよ。
極秘だとはいってもやっぱり設計チームには情報は伝わるから、竜也が参加しているそのプロジェクトに入れなかった司は悔しがってた。
司、竜也の才能には一目置いてるからね』

悔しがっているのは真珠も一緒のようで、きっと恋している相手に違いない司の気持ちを思えば当然なんだろうけれど。

私は、これまで相模さんの下でその才能をいかんなく発揮していた司ではなく、竜也が今回の全社を挙げてのプロジェクトに参加していたことが嬉しくて仕方がない。

竜也自身、私にプロジェクトのことを話せなくてつらかったとも言っていたけれど、

『家族には極秘事項も伝えていいことになってるから、次からは、ちゃんと言える』

電話での声だけで、竜也の嬉しそうな表情が想像できた。

結婚することの効能は、ここにもあり、だ。



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