いきなり王子様
エレベーターを飛び出して、そのままロビーを駆け抜けようとしていると。
「奈々っ」
ロビーに大きな声が響いた。
慌てて足を止めて辺りを見回すと、視界の隅には
「竜也っ?ど、どうして」
ロビーの片隅の柱にもたれている竜也がいた。
スーツ姿で鞄を持ったその姿は遠目にも格好良くて、側を通り過ぎる女の子たちがちらちらと視線を投げていく。
そんなことに気づいていないように、竜也の視線はまっすぐ私に向けられてい
た。
「新商品の会議で本社に来ていたんだ」
近づいてくる竜也のもとへ、私からも歩みを向けた。
「それならメールでもくれれば良かったのに」
お互いの距離がゼロに近づいて、向かい合うのは先週末以来。
それは、付き合い始めてからもほぼ同じ期間だ。
そういえば、こうして本社で話すなんて機会は、滅多になかったな、とふと思う。
年に数回研修で顔を合わせる機会があったとは言っても、設計部門とスタッフ部門で仕事をしている私たちには、その機会すらなくなりつつある。
こうして本社で会うなんてこと、かなり新鮮だ。
竜也が本社にいるのも珍しいことかもしれない。
「今朝、突然相模さんから連絡があって、新商品の開発チームみんなが本社に集められたんだ。宣伝部や営業部、かなりの人数が会議室を陣取ってこれからのことを色々と、な」
「そうなんだ。……でも、ロビーで待ってる時間があればメールでもできたでしょ?もし、すれ違ってたらどうしたの?」
「ん?それは抜かりない。三橋さんが奈々の動きを逐一連絡くれていたから」
「……はあ?」
「ほら、これ見ろよ」
ふふん、と意地悪そうな表情と共に差し出されたスマホには、何やらメール画面。
「見ていいの?」
少し不安になって聞いてみる。
「いいぞ。見て、驚け」
相変わらずにやりと笑っている竜也に不安を覚えながらその画面に視線を落とすと。
『奈々の業務終了。慌てて更衣室に飛び込んだから、あと数分でロビー通過予定。しっかり捕まえて、楽しい週末を。あ、結婚式では喜んでスピーチを引き受けるから、楽しみにしてろ。奈々に関しては、お前よりもよーく知ってるから妬いても無駄だ。奈々が酔っぱらうと可愛いんだぞー』
「こ、これって……」
「奈々の事をよーく知ってるらしい、三橋さんからのメールだ」