いきなり王子様
「拗ねてないけど、いい気分じゃない」
「ふふっ。じゃ、三橋さんに妬いてるんだねー。って、一体どうして三橋さんが竜也にメールしてるの?知り合いだったっけ」
特にそんな事、聞いたことないけど、三橋さんは全社的に顔が広いから竜也ともどこかでつながっているのかな。
会社近くのパーキングに何度か乗った竜也の車を発見して、ふっと嬉しくなった。
恋人の車の助手席って、特別だから、そこに今日も私の居場所があるっていうのは、それだけで疲れもどこかにいってしまう。
何歳になっても、この気持ちは変わらないな。
竜也はパーキングの精算をしながら、リモコンキーで車のロックを解除してくれた。
「先に乗ってろ」
相変わらず機嫌よろしくない声に、あらら、と思いながら乗り込むと。
鞄からメール着信の音が響いた。
取り出して見てみると、そこには三橋さんからのメールが届いていた。
「なんだか、怖いかも」
私と竜也の関係を既に知っているに違いない三橋さんの、にやりとした笑顔が簡単に予想できて、肩を竦めた。
『奈々のタツヤって、甲野の事だったんだな。将来性十分、お買い得な男だ。
せいぜい楽しい週末を過ごしてくれ。月曜日、くれぐれも目立つところにはキスマークつけてくるなよ』
うわっ。
「き、キスマークって、三橋さん……」
画面を見つめながら肩を落とす。
そう言えば、私に恋人ができたと知られたことも、竜也につけられたキスマークを見られたことがきっかけだった。
今ではもう消えてしまったけれど、週の初めの数日間は気になって仕方がなかった。
今日は目立つ場所にキスマークをつけられないように気をつけなきゃ。
三橋さんにこれ以上からかわれるのも嫌だし。
で、でも。
こんな事を考える私って、この後竜也にキスマークをつけられる事を期待してるってこと?
……期待、していないとは言えないな。
何といっても今日は竜也の部屋にお泊りの予定でいるし、その準備も鞄に済ませている。
それに何より。
竜也の体温に包まれた先週以来ずっと、その温かさが恋しくて仕方がなかった。