いきなり王子様
「起きてるか?」
「え?」
「奈々、固まってる」
恥ずかしさと照れに体を熱くさせながら助手席で固まっていた私に、竜也は怪訝そうに声をかけた。
そして、運転席に乗り込んで、エンジンをかけながら
「ベルト、した?」
「う、うん」
「それ、見せろ」
私が両手で握りしめていたスマホを、片手でひょいと取り上げた。
「あ、それ、だめ」
慌てて取り返そうとする私の手を掴んで、反対側の手でスマホを遠くへと。
画面には三橋さんからのメールがそのまま残っているはずだ。
「それ、えっと、三橋さんからのメールで、なんでもないから」
「なんでもないなら、俺が見てもいいだろ」
「だ、だからー、だめだってば」
取り返そうと暴れる私をものともせず、片手で私の体を抑えながら竜也はメールに視線を落とした。
「へえ、俺って掘り出し物みたいだな。三橋さんだって、かなりのやり手でお買い得な男だけど。で、キスマークって、見られたんだ?」
意地悪な声で、ちらり。
私を見ながら口角を上げた竜也は、既に抵抗する事を諦めた私の手を離すと、そのままその手を私の頬へと。
するする。
優しく這う竜也の指先に心地よさを感じる。
「三橋さんだけじゃなくて、他の男にも見られたんだろうな」
「……多分」
「そっか。上等上等」
既に消えている首筋のキスマークを探すように視線を向けると、耳の下あたりから肩に沿って、ゆるりと撫でる。
「……っ」
瞬間しびれるような感覚にぞわぞわと体は跳ねて、思わず竜也の手を掴んだ。
視線を合せると、細められた瞳が何かを企むように黒い光を見せた。
「三橋さんにも誰にも、見えない所ならいいってわけだ」