いきなり王子様
その後病院を出た私たちは、お店に戻るという美散さんと別れて竜也の部屋へ行った。
途中、竜也が気に入っているお店でパスタを食べて、スーパーで買い物をして。
そして連れてこられたのは5階建てのマンション。
私の部屋よりも広いし、男性の一人暮らしだからか物が少なくて殺風景とも言える。
「一人で住むの、もったいないくらいだね」
「風呂、入るだろ?今お湯はってるから」
「あ、うん。ありがとう」
思わず緊張した声で答えてしまう。
「奈々の鞄、寝室に運んでおいたから。クローゼットの左側の引き出し幾つか空けてるから、適当に使って」
「うん……」
既にスーツからジーンズに着替えている竜也を見ていると、普段と変わらない落ち着いた様子。
コーヒーメーカーでコーヒーを淹れている後姿もかなり自然で、私一人が緊張しているんだな、と妙に居心地が悪い。
リビングのソファに意味なく腰かけて、ゆったりと動いている竜也を見つめていると、更に私の心拍数は上昇して、呼吸も荒くなったような気がする。
「ん?どうした?」
冷蔵庫から何やら取り出しながら、竜也が振り返った。
「疲れたのか?仕事終わってすぐに璃乃のお見舞いに行ったし、車に結構乗ってたしな」
「あ、ううん、疲れてないよ、大丈夫」
心配そうな竜也に、慌ててクビを横に振る。
だけど、自分でもわかるくらい上擦っている声には『大丈夫』だと信用してもらう力はなくて、竜也は小さく首を傾げて眉を寄せた。
「なんだ?もしかして、緊張してる、とか?」
探るような声に、一瞬ぴくりと私の体が跳ねたのを、竜也が見逃すわけもなくて手にしていた白い箱をテーブルに置くと私の側にやってきた。
「よいしょっと」
私の隣に座るや否や、私をその膝の上に抱き上げた竜也は、向かい合う私の顔をじっと見つめて。
「慣れろ」
低い声で、いきなりそんな一言を呟いた。