いきなり王子様
* * *
「ぎりぎりセーフだな」
「……アウトだよ」
「いや、ブラウスのボタン、ちゃんと全部かけていれば見えない」
「……」
お風呂の後、私は竜也に髪を乾かしてもらっていた。
リビングのラグの上に座る竜也の足の間にちょこんと座っている私は、背後から聞こえるドライヤーの音が心地よくて、今にも寝てしまいそうだけれど、胸元を見ると幾つも赤い華。
憂鬱な気分で眠気も飛んでいく。
月曜日までに消えるかな。
「三橋さん、きっとチェックするんだろうな」
小さくため息を吐くと、
「だったら、見せつけてやれば?俺に愛されましたって、言ってやればいいんじゃないの?」
「あのねえ。無理だから。私、恋愛経験値低くて、うまく対応できません。
きっと、三橋さんにからかわれたら顔を真っ赤にして黙り込むしかできないんだから」
「……いいな、三橋さん。そんな奈々の顔を見られるなんて羨ましい。
写メでも送ってもらうかな」
「はあ?」
竜也の言葉が信じられなくて、思わず振り返ると、どこか真面目に考え込んでいる表情。
「三橋さん、奈々のことをかなり大切にしてるから、逆に怒るかな。
でも、奈々を泣かせるなとは言ってたけど、ベッドで啼かせるなとは言ってなかったし、キスマークつけるってことは、愛してるってことだから、いいか」
私の髪を梳き、ドライヤーをあてつつも、ぶつぶつと真面目にそんなことを呟いている竜也。
「ねえ、竜也?」
「ん?」
「なんだか、論点がずれてない?私、キスマークを三橋さんにからかわれるのが嫌だって話してるんだけど」
「からかわれてもいいだろ?恋人に可愛がってもらいましたって言えばいいし」
「い、言うわけないでしょ」
「言えよ」
「なんでっ」
「三橋さんが羨ましいから」
「……え?」
思いがけない竜也の言葉に、それまで熱くなりかけていた私の口調は一気に冷めて、何が何だか。
わからなくなった。