いきなり王子様
「俺が知らない奈々を、三橋さんは知ってるわけだし、
『奈々を大切に思ってる』なんて公言されて。
確かに三橋さんは奈々に惚れてるわけではないしもうすぐ結婚するわけだけど。それでも、毎日奈々の側にいられる三橋さんが羨ましいんだ」
ドライヤーのスイッチを切って、床にそっと置いた竜也は、そのまま私を背後から抱きしめた。
私の肩にこつんと顔をのせて、小さく息を吐いた。
この部屋に来てからいつも私の体に触れてくる竜也に、私はようやく慣れたようで、ゆっくりと竜也に体を預けた。
「三橋さんね、私に気持ちが揺れたことがあるんだって」
ふふっと笑いながら目を閉じた。
竜也の体が強張ったかのようにぴくり。
背中越しにそんな動きを感じて肩を竦めると、一層強い力で抱きしめられた。
「ちょ、竜也、大丈夫だよ。三橋さん、ほんの少し私に揺れただけで恋人を超えるなんてめっそうもないって感じだから」
「へえ」
低い声が耳に響いて、竜也の機嫌が悪いとすぐにわかる。
少しだけ、もう少しだけ、意地悪したい。
「でもね。恋人がいても、私のことは別の次元で大切なんだって。
いつも気にかけてくれて、面倒見てくれて、幸せになれって」
「大切か……」
ふう。
小さな吐息に竜也の落ち込みがわかる。
妬いてるのかな。
そうでなきゃ、私が意地悪している意味もないけれど。
「私も、三橋さんのことが大切なんだよね。入社してからずっと私を育ててくれて、見守ってくれて。
私の見た目と中味のギャップも笑って流してくれたし。
それが私の個性だって言ってくれた。すごく大切な人」