いきなり王子様

「高校を卒業してすぐに就職した地元の女の子にしてみれば、いずれは本社に栄転するかもしれない年上の男はかなりの優良物件だからな。
それだけで『王子様』の称号を貰えるなんて、微妙だよな」

「うーん、それもあるかもしれないけど、違うよきっと。
さっき会議室にまで甲野くんを探しに来た女の子は甲野くん自身を本気で好きな目をしてた」

私を睨みつける厳しい目をみれば一目瞭然。

彼女は本気で甲野くんを好きだし、欲しいと思っている。

同じ女だからわかる。

「本気で俺を好きになられても、応えられないんだけどな」

興味なさそうな甲野くんの声に、首を傾げた。

「王子様は今、お姫様をものにしようと作戦を練ってる最中だから、他の女の子は眼中にない」

「……お姫様って……」

「ん?お前以外、誰がいる?この数時間、遠距離恋愛しようって口説いてるの気づいてなかったか?そんなわけないよな」

少しだけスムーズに動き出した車の流れの中で、あまりにも唐突なその言葉は、私にはかなりの驚きと衝撃。

思わず黙り込んで、頭の中は真っ白になる。

そんな、混乱している私の気持ちに更に追い打ちをかけるように目の前の王子様は。

「お姫さん、って呼ぶのも面倒だから、奈々って呼ぶわ。俺の事も竜也って呼んでいいし」

「た、たつや……?」

呆然と呟く私の声に、満足げな笑い声をあげた王子様、いや甲野くん、いや……たつや、と呼んでくれとのたまう男は。

「ようやく車も動き出したけど、このままじゃいつたどり着くのかわかんねえから、高速おりる。で、飯でも食いにいくか。いいだろ?奈々」

おかしそうに話す声は、私をからかっているとすぐにわかったけれど。

それでもやっぱり、『奈々』と呼び捨てにされると、どきっとした。

そして、どうやら私を口説いているらしい王子様と、私はこれから遠距離恋愛を始める事になるのかなと戸惑い。

この早すぎる展開って一体どうなんだ、と思いつつも。

それは決して嫌な感情ではなかった。




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