いきなり王子様


それから車はすぐに高速をおりた。

甲野くんは何が食べたいかと私に聞いてくれたけれど。

工場を出てからずっと緊張していたのか、特にお腹がすいているとも思えなくて
『任せるよ』と答えただけだった。

甲野くんは、少し考えた後、

「電話して席があるかどうか聞いてくれ」

そう言いながらスーツのポケットからスマホを取り出すと、私の膝に投げてよこした。

一般道を走りながら、どこか目的地に向けてハンドルを握っている甲野くん。

彼から投げられたスマホを恐る恐る手にして、その横顔を見ると、変わらず前方を見ながらハンドルを握り言葉を続ける。

「アドレス帳に『うまいで』って名前があるから、電話して席とっておけって言ってくれ」

「う、うまいで……?は?」

甲野くんの言葉に戸惑いながら、スマホに視線を落として焦った声をあげた。

「店の名前通り、かなりうまいもんを出してくれる和食の店だ。
あ、スマホのロックは俺の社員番号と誕生日を繋げた数字だから」

そう言って教えてくれた番号は、社員番号と誕生日。

誕生日は7月7日だった。

「え?いいの?ロック解除しちゃっていいの?」

暗証番号を聞いても、どうしていいのかわからない。

そんな私に、一度小さく肩をすくめた甲野くんはなんでもないように言った。

「いいよ。見られてまずいもんはないし、これからこういう機会も増えるだろうし」

「……はあ……」

「あ、番号、奈々の誕生日に変更してもいいけど、それってあまりにも、べたすぎだな」



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