いきなり王子様
「わ、私の誕生日?」
「そ。いつ?」
「……7月10日だけど」
「近いんだな。じゃ、再来月、一緒にお祝いできるしちょうどいい」
すらすらっと、どこかどきりとときめく、そんな言葉が車内に響いて、忘れていた感情に体は包まれる。
まるで恋を成就させて、たまらなく弾んでいる心を刺激されるような、そして、それを言って欲しい相手から、まさに言ってもらえたような、そんなそんな。
「『うまいで』に、俺の名前出して席とってよ。で、奈々の誕生日と俺の誕生日を繋げた番号に暗証番号を変更しておいてくれ」
スムーズな運転と同じような滑らかな言葉たち。
さっきも感じたけれど
「甲野くんって、結構強引だね。何事にも淡泊で執着しなさそうなのに。
意外、意外」
思わずため息とともに声が出た。
いつもあっさりとした様子で周囲からの距離を大切にしている印象があったけれど、今日知った彼に関しては、それが全くあてはまらなくて、振り回されてばかりだ。
「近づく女の子を優しく突き放すイメージに惚れこんでる甲野くんのファンが描く王子様像とは違うからびっくりしたけど。そんな甲野くん、なかなかいいね」
そして、ちょうど信号で車が停まって、甲野くんが大きく息を吐いた後。
どこか不機嫌な視線が向けられた。