いきなり王子様
「だから言ってるだろ」
低い声からもその不機嫌さはあからさまで、言い過ぎたかなと、びくりとした。
まあ、他人が持つイメージと上手に折り合いをつけて生きなくちゃいけない煩わしさは私もよくわかっているのに。
傷つけたかもしれないし、言い過ぎたかな……と少し反省しながら甲野くんの言葉を待つと。
「甲野くん、じゃなくて竜也って呼べっていっただろ?学習しろよ」
呆れた声が続いた。
「え、そこ?そこが気になるわけ……?」
「当然」
当たり前だろっていうように眉を寄せた甲野くんは、じっと私を見つめながらその指先を私の頬へ伸ばした。
え、な、何するんだ?
慌てて体を引こうとしても、その指は追いかけてきて、私の頬から耳にかけてゆっくりと撫でていく。
温かい仕草は、助手席の背に追い詰められた私に何の逃げ場も許さない。
「ちゃんと、俺の恋人になってよ、奈々」
「えっと……」
「遠距離になるけど、奈々が寂しい思いをする以上の幸せを注ぐから」
「こうの……あ、ちがっ……たつや……」
「そう。竜也。これから俺の事をそう呼んで、俺の事も幸せにして欲しいんだけど」
計算しているのかと思わず勘ぐりたくなるほどの甘くて艶のある声音に、息が止まる。
声だけではない。
これまでのイメージを覆すような色気漂う目元には、私から肯定の答えしか認めないという強い思いがありありと浮かんでいて。
「わ……わかった……」
強い視線に囚われた私は、思わず答え頷いた。
はっと気づいた時にはもう遅くて、目の前には竜也の満足げな口元があった。
あ……やっぱり、この男から、逃げられそうもない。