いきなり王子様
その後、車はスムーズに一般道を走り、目的のお店に到着した。
竜也がよく行くというお店『うまいで』は、高速の出口からそれほど近くもなく、住宅街でひっそりと営業しているにも関わらず、店内は客でいっぱいだった。
竜也に言われ、彼のスマホを使って予約を入れていたおかげで席は確保されていて、私達は待つ事なく奥まった場所にある席へ案内された。
「竜也が女の子を連れてくるなんて、珍しいわね。
明日は美汐の幼稚園のドッジボール大会だから雨に降られると困るんだけどな」
「うるさい。さっさと注文とれよ」
「はいはい。ほんと、こんな愛想のない男、面白くもないんだからいつでも捨てちゃっていいからね」
黒いエプロンを腰に巻いている女性は、私達と同い年くらいの華奢な人。
ポニーテールにまとめた髪はサラサラ揺れて、化粧っ気がないにも関わらず輝いている肌に、羨ましさを覚えた。
竜也と軽い会話を交わしあう彼女は美散さんといって、店長さんの奥さんであり、竜也の幼馴染らしい。
美汐ちゃんというのは、二人の娘さん。
美散さんは、竜也と私に何度か視線を向けながら
「美男美女で華々しいね。こんな飾りっ気もないお店には異質。
まあ、竜也の性格が見た目を裏切ってるの知ってるし、きっと奈々さんも、でしょ?」
くすくす笑いながら、メニューの中の煮物幾つかをオススメよと話す美散さんに、竜也は大きなため息を吐くと。
「車だから酒はなしで、後は幾つかオススメで持ってきてくれ。
あ、奈々は何か食べられないものあるか?」
「何でも大丈夫だけど、温かい物は温かいうちに食べたい。
それと、この『ほっけ』は是非いただきたいです」
メニューを見ながら早口でそう言うと、竜也は小さく頷いて
「それ、持ってきて」
と美散さんにぶっきらぼうに告げた。