いきなり王子様
* * *
「いつでも食べに来てね。もちろん、奈々ちゃん一人でも大歓迎。
竜也はなかなか来てくれなくて寂しいから、是非是非」
「あ、はい。また来ますね。どれもこれもおいしかったし、会社の友達を連れてきます」
「そう?待ってるわよ。目の保養になる素敵な年下の男の子でも連れてきてくれたら大サービスしちゃう」
お店の外まで出てきてくれた美散さんは、大きな声で笑うと、あ、と気づいたようにエプロンのポケットから小さなメモのようなものを取り出した。
「これ、この店のショップカード。良かったら持って帰って。
そうだ、私のメアドも書いておくから、何かあれば連絡ちょうだい。
もちろん、竜也がらみの事でもOKだよ」
差し出されたカードは桜色で、グレーの文字が映える綺麗なもの。
「ありがとうございます。じゃ、私の名刺も……」
桜色のカードと、私が鞄から取り出した名刺を交換した。
「この名刺には会社の連絡先しか書いてないんで、また私からメール送りますね」
「うん、待ってるよ。へえ、IR課なんだ。投資とか興味があるの?」
名刺を見ながら呟く美散さんの声は、心なしか沈んでいるようで、さっきまでよりも幾分トーンが落ちているようで、違和感を感じた。
「えっと……投資というか、株の仕組みのようなものに興味があって、本当はそっちの業界に就職したかったんですけど全部落ちたんですよね。
最後に受けた今の会社に拾ってもらえて、入社前の面接でその事を人事部に話したら、ちょうどIR課の女性が結婚して退職するからその席に配属してもいいか?って話になって……今に至る、です」
思い返すように話す私に、美散さんは『そっか』と小さく呟いた。
「結果オーライってよく言うけど、奈々ちゃんの人生はなかなか順調なんだね」
「まあ、そうかな……。でも、腹の立つことも多いし会社を辞めたいって思った事も一度や二度じゃないし……」
「それは、誰でもそうだろ」