いきなり王子様
不意に聞こえた声は、支払いを終えてお店から出てきた竜也のもの。
「どこで働いても、誰と働いても、むかつく事もあるし腹も立つ。
まあ、嬉しい事もやりがいも、同じだけどな」
ぽつりと呟く竜也は、それがどうしたとでもいうように肩を竦めると、美散さんに
「うまかった。またそのうち来るから、ヤスと仲良く頑張れよ」
あっさりとした口調で声をかけた。
単に挨拶をした程度の言葉だけど、その口ぶりからは、美散さんへの優しい気持ちが感じられて、私は、どこか疎外感を感じてしまう。
今日親しくなったばかりの私がそう感じるのは、身勝手な感情だけど……。
「竜也が女の子を連れてきたって、みんなが来たらちゃんと言っておくよ。
大騒ぎになって、きっとすぐに呼び出しがかかると思うから覚悟しておいてね」
「は?そんな呼び出しに俺が応じるわけないだろ」
「ふふっ。小学校からの仲間のパワーをなめてもらっちゃ困るんだな。
来てくれなきゃ押しかけるし、今奈々ちゃんと連絡先も交換したから竜也が来なくても奈々ちゃんを呼び出して根掘り葉掘り」
「おい、いい加減にしろよ。奈々とはまだこれから……」
「うん。これから頑張って口説いてちょうだい。竜也がそうしようって決めた女の子なら、私たち精一杯応援するからね」
勢いのある口調と、心底嬉しそうな表情で、美散さんは竜也の背中をポンと叩くと、すぐに視線を私に向けた。
二人のやり取りをぼんやりと聞いていた私は、慌ててしまった。
「奈々ちゃんをみんなに紹介できるのを楽しみしてるからねー」
「あ、その、それはその、どうかと……。
私もまだこの先、竜也とどうなるのかわからないっていうか……」
そう、今日初めて親しく言葉を交わしたに近い竜也とこの先どうなるかなんてわからない。
気に入ってくれたのかもしれないし、私も竜也の事を特別な目で見ているのかもしれないけれど。
だからと言って、竜也が言う『遠距離恋愛』がうまく進むのかどうか。
それは謎だから。