いきなり王子様
車は夜の道を静かに走り、甲野くんに私の家までの道を教えながらのドライブはもうすぐ終わる。
初めて二人きりで過ごす時間は、沈黙に支配されている時間の方が多かった。
特にそれが気になるでもなく、ラジオから流れるDJの軽やかな声にくすくす笑ったりする意味のない時がなかなか心地よかった。
「三つ目の信号を右折して、すぐのパン屋さんを更に右折してくれたらそこでいいよ。そこからは一方通行ばかりだから戻るのが面倒だし」
膝に置いていた鞄を握りなおして、車から降りる準備。
2時間ほど竜也……ううん、やっぱり甲野くんだな。
と一緒に過ごして、思っていた以上にわかりやすい男だと気づいたけれど。
わかりやすいその性格ゆえに、私が踏み込めない部分があると簡単にわかった。
きっと、二人きりで過ごすだけではわからなかっただろうけれど、今日美散さんと一緒にいる甲野くんを見ていると
『ああ、そうなんだ』
納得できるものばかりだった。
多分、というよりも絶対、甲野くんは美散さんの事が好きだ。
既に結婚している美散さんへ甲野くんの想いが実る事はまずないにしても、それでも尚、その想いを表情に浮かべるほどの愛情を持っているのなら。
私が彼と一緒にいられるわけがないと思う。
「今日はありがとう。おいしい晩御飯奢ってくれたうえに送ってもらって助かった」
もうすぐ右折。そしてパン屋さんだ。
そこからすぐの我が家までは歩いて帰ろう。
「家、どこ?もう遅いから前まで送るし」
明るく話す私に、甲野くんは低い声でそう呟く。
どこか機嫌が悪そうなのは、どうしてだろう。