いきなり王子様
「ば、ばか?」
「そうだろ?勝手に俺が美散に惚れてるなんて想像して盛り上がって切れて。
で、反省して謝るなんて、完全なばか」
ほどよくすいている大通り。
順調に走る車はどこに向かっているのかわからないけれど、同じようにわからないのはこの会話が向かう先だ。
諦め混じりに声を落とし、私をばかだと言う甲野くんは前方を見る姿勢を変えず
「店にいる時からおかしいなとは思ってたんだよな。
美散を見ながら泣きそうな顔してるし、俺にも距離をとろうとして『甲野くん』に呼び方戻すし」
「だ、だってそれは、見るからに」
「ああ。見るからに俺が美散を大切にしてるからって言いたいんだろ?」
「そ、そうだけど?間違ってないでしょ?」
「間違ってない。美散は俺にとっては大切な女だ」
「ほら……やっぱり」
はっきりと甲野くんが美散さんの事を『大切な女』と言い切るほど、その気持ちは強いものなんだと知らされて、知らず知らず目の奥が熱くなる。
俯く私の様子に小さくため息をついた甲野くんは、私に諭すようにゆっくりと呟いた。
「だからさっき、司の事を話した時にも言ったけど。
『惚れてる女』と『大切な女』ってのは違うから。
美散を大切に思う気持ちは、奈々への気持ちとは次元が違う。
あ、もちろん奈々が、『惚れてる女』だから誤解するなよ」
誤解も何も、よくわからないんですけど。