いきなり王子様
「あ、そうなんだ。でも、クッキーもおいしいから、いいんじゃない?
みんなで食べられるし……って、一体誰にあげるの?
それに、ここって一体」
どこなの?
相変わらずはっきりとした事は何も言わない竜也に連れられてここに来たけれど、いわゆる高級住宅街の中に堂々と建っている家の真ん前。
厳かなたたずまいの門扉すら私には無縁のもので、慣れないこの場所の空気感に圧倒されそうになる。
何か悪事でも働かない限り、私にはとうてい住む事なんてできないだろうな。
きっと社長とか医者とか。
稼ぎのいい人がこの界隈に住んでるんだろうけれど、一介のサラリーマンである竜也とどんな関係があるんだろう?
「知り合いの家なの?」
首を傾げる私に、竜也は小さく頷くと。
「姉貴の家。今日はここで姪っ子の面倒を見るんだ。付き合え」
まるでそれが私には当たり前の事のように、真顔で呟いた。
姉貴やら姪っ子やら……まさか私、今から竜也の家族に会うわけ?
思ってもみなかった展開には、慣れつつあったけれど、ちゃんと言葉を交わすようになった翌日にいきなり家族に会わせる?
……本当、どんな男だ。
思わず言葉を失った私の様子なんて意に介する事もなく、玄関のベルを鳴らしている竜也。
その手に持たれている袋はもしかしたら、姪っ子さんへの手土産?
きっとそうなんだろうな……。
どうしたらいいのかと、あたふたする気持ちを抑えるなんて無理だけど、今更帰るなんて言えなさそうだ。
予め言ってくれれば、せめて身なりだけでももう少し気を遣ったのに。
本当、これから私はどうなっていくんだろうか。
自分の思うがままに私を振り回すオトコを見ながら。
諦めにも似た気持ち、それしか私にはなかった。