114歳の美女
 (1週間後にはニューヨークだ)

 (泊まるか)

 俊介の心が決まった。
 俊介が思い切って口を開いた。

 「とき、思い出をくれないか」

 俊介が男らしく大胆な言葉を口にした。

 「思い出を?」

 ときが戸惑った。


 「ニューヨークに連れて行くのは諦めた。その代わり、思い出が欲しい。日本に帰り、ときを迎えるまで、その思い出を抱いて暮らしたい。だから・・・。とき、ここに一緒に泊まってくれないか」


 俊介の顔は、5年前のぼんの顔ではなく、逞しい男の顔だった。

 「一緒に泊まる・・・」

 ときはうろたえた。思いも寄らぬ事態に。120年近く生きているが、こちらの方は、ときはとんと疎かった。

 (俊介の気持ちは、痛いほどわかる。けど・・・。今から京都に帰るか。いや、それでは・・・)


 (一生に一度、自分の為にだけ生きても、ええのやないか)


 (うるさいお家はんは、もうこの世にいない事だし・・・)


 もう一人のときが、ぽんと背中を押した。

 
 子を産んではいけまへん。

 この時、ときは俊介の事で頭の中が一杯で、迂闊にも、母の遺言を忘れていた。



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