114歳の美女
 智也が『花簪』の暖簾を潜った。


 ときは5年経った今も智也には冷たく、雪解けの気配も感じられない。
 憂さを晴らすには、酒。今の智也には酒しかなかった。


 「先日、珍しい人がお見えになりましたぇ」


 花香が智也に言った。


 「誰や」
 「誰か、当ててみなはれ」


 花香が客の名を出し渋っている。

 「古田か」

 課長の古田とは、3年ほど前に職場が変わり、智也は今では彼と疎遠になっていた。
 智也も今は、高齢福祉課から資産税課に移っていた。


 「いいえ・・・」

 花香は首を横に振った。


 「言いまひょか」
 「頼む」


 「奥さんどす」


 「ええっ、ときが」


 口に入れたビールを、智也は思わず吐き出した。





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