白き薬師とエレーナの剣
不意にグインがいずみと水月に視線を移し、柔和に微笑みかけてくる。
体格を見て判断しているのだろう。顔を見なくとも、グインは二人が仲間ではないと気づいていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今日の陛下は機嫌が良いですから、理不尽に斬り捨てることはしないはずです。……陛下の期待を裏切らなければ、ですがね」
クスクスと小さく笑うグインへ、キリルが低く小さな声で「無駄口を叩くな」と注意を促す。
グインは一瞬大げさに目を丸くして小さく肩をすくめると、後ろへ下がり扉を開けた。
「お引き止めてしまって申し訳ありません。陛下から許可は頂いております、どうぞ中へ」
言われるままに、一行は部屋の中へと足をつける。
廊下と同じ深紅の絨毯がしかれた部屋は、鎧や槍、大剣や大盾などの武具が飾られ、王の威厳や勇ましさを誇示していた。
そんな部屋の最奥で、一段高くなった所に置かれた大きな椅子に深々と座り、寄りかかる男の姿があった。
真っ先に肩幅の広い大きな体躯と、橙色に近い金髪が目に入る。
一行に気づくと、彼は気だるそうに腕を肘かけに置いて頬杖をついた。
遠目からでも男から威圧感が漂ってくる。説明されなくとも、彼がバルディグの王なのだと分かった。
ゆっくりと近づく度に、辺りの空気が重くなっていく。
次第にジェラルドの顔がはっきりと分かってくると、思わずいずみは息を呑んだ。
(あの方がジェラルド陛下……)
彫りが深く、はっきりとした目鼻立ち。一見すると精気に溢れて勇ましそうな顔だが、虚ろな琥珀色の瞳と、肩まで伸ばした波打つ髪のせいで、深い森にある沼地のような陰湿さを感じてしまう。
よく見ると頬がこけており、顔全体が青白い――心なしか、彼の体から魂が半分抜けているような印象を受けた。
キリルが王の足元まで近づくと、恭しく膝をついて頭を垂れる。後方でも男たちが跪く音が聞こえてくる。
いずみと水月は繋ぎ合っていた手を離し、彼らを真似て同じように跪いた。
「……顔を上げよ」
力がまったく入っていない、低くかすれた声でジェラルドが命じる。
疎らに一行が顔を上げると、キリルはジェラルドを見上げ、口を開いた。
体格を見て判断しているのだろう。顔を見なくとも、グインは二人が仲間ではないと気づいていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今日の陛下は機嫌が良いですから、理不尽に斬り捨てることはしないはずです。……陛下の期待を裏切らなければ、ですがね」
クスクスと小さく笑うグインへ、キリルが低く小さな声で「無駄口を叩くな」と注意を促す。
グインは一瞬大げさに目を丸くして小さく肩をすくめると、後ろへ下がり扉を開けた。
「お引き止めてしまって申し訳ありません。陛下から許可は頂いております、どうぞ中へ」
言われるままに、一行は部屋の中へと足をつける。
廊下と同じ深紅の絨毯がしかれた部屋は、鎧や槍、大剣や大盾などの武具が飾られ、王の威厳や勇ましさを誇示していた。
そんな部屋の最奥で、一段高くなった所に置かれた大きな椅子に深々と座り、寄りかかる男の姿があった。
真っ先に肩幅の広い大きな体躯と、橙色に近い金髪が目に入る。
一行に気づくと、彼は気だるそうに腕を肘かけに置いて頬杖をついた。
遠目からでも男から威圧感が漂ってくる。説明されなくとも、彼がバルディグの王なのだと分かった。
ゆっくりと近づく度に、辺りの空気が重くなっていく。
次第にジェラルドの顔がはっきりと分かってくると、思わずいずみは息を呑んだ。
(あの方がジェラルド陛下……)
彫りが深く、はっきりとした目鼻立ち。一見すると精気に溢れて勇ましそうな顔だが、虚ろな琥珀色の瞳と、肩まで伸ばした波打つ髪のせいで、深い森にある沼地のような陰湿さを感じてしまう。
よく見ると頬がこけており、顔全体が青白い――心なしか、彼の体から魂が半分抜けているような印象を受けた。
キリルが王の足元まで近づくと、恭しく膝をついて頭を垂れる。後方でも男たちが跪く音が聞こえてくる。
いずみと水月は繋ぎ合っていた手を離し、彼らを真似て同じように跪いた。
「……顔を上げよ」
力がまったく入っていない、低くかすれた声でジェラルドが命じる。
疎らに一行が顔を上げると、キリルはジェラルドを見上げ、口を開いた。