白き薬師とエレーナの剣
「お待たせして申し訳ありません陛下。時間はかかってしまいましたが、ようやく『久遠の花』を連れ帰ることができました」

「よくやってくれた、キリル……どの者が『久遠の花』なのだ?」

 ジェラルドに尋ねられると、キリルは横にずれ、手の先を揃えていずみを指した。

「彼女が『久遠の花』です。隣は……彼女を連れてくるための人質です」

「ほう……二人とも、余に顔を見せてみろ」

 弱々しいのに、逆らうことを許さない畏怖を帯びた声。
 恐怖で小刻みに震える手をどうにか動かし、いずみは頭からフードを外した。

 あらわになった二人の顔を、ジェラルドは瞳だけを動かして交互に見る。

「まだ子供、か。娘よ、名はなんと言う?」

「は、はい……いずみと申します」

 乾いた喉から出てくる声は、蝋燭の火のように揺れている。
 少しでも間違ったことは言えない。そう思えば思うほど、いずみの口の中に苦味が広がっていく。

 ジェラルドは背中を椅子から離し、わずかに顔を前に出して、いずみをジッと見つめ続ける。
 しばらくして彼は脱力したように体勢を崩し、再び椅子に背中を預けた。

「こんな小娘が不老不死の方法を知っているとは、にわかに信じがたいな。本当にできるのか?」

 ここで無理だと言ってしまえば、二人とも即座に首を斬られてしまう。
 いずみは敢えてはっきりとした声で、「できます」と言い切った。

「私はまだ年若いですが、『久遠の花』として薬を作り、人を癒してきました。それに不老不死の秘術は、一族が子供の頃に口伝で学び、口外しないことを厳しく躾けられました。私よりも幼い一族の者でも、不老不死の方法を知っています」

 不老不死の秘術以外のことはすべて真実だ。
 完全な嘘を言っている訳ではない。それが少し気休めになり、いずみは真っ向からジェラルドの視線を受け止めることができた。

 ジェラルドはわずかに眉を上げ、己の顎を撫でる。

「言い切ってくれるとは頼もしい限りだ。では、その秘術を教えてもらおうか」

 これが自分たちが生き残るための分岐点になるはず。
 いずみは一度唾で喉を潤し、暴れ出しそうな動悸を押さえ込んだ。

「不老不死は、人の体の作りを根本的に変えてしまうものです。秘薬を一回飲めばなれるものではありません。何年もかけて幾多の薬草を使い、陛下のお体を少しずつ変えていく必要があります」
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