白き薬師とエレーナの剣
(よっぽどグインのことが苦手なんだな。まあ、アイツを好きなヤツなんて物好き、まず居ねぇよ)

 水月は困った表情を浮かべながら、心の中で激しく首を縦に振る。
 
 ポン、と水月の肩へルカの手が乗せられた。

「グインのことで何かあったらいつでも力になりますから、遠慮せずに言って下さい。将来有望な若者を潰される訳にはいきません」

「あ、ありがとうございます、ルカ様。そう言ってもらえると心強いです」

 水月は安堵で表情をゆるめ、心から感謝する素振りを見せる。

 事情を伝えて自分たちを保護してもらえたら、楽になれるかな?

 一瞬、そんな考えが水月に浮かんだが、すぐに消し去る。
 自分の命を他人に預けてしまうのは、目前に剣を突きつけられるよりも恐ろしかった。

 水月の返事にルカは頷くと、もう一度軽く肩を叩いてから手を離した。

「では、そろそろ失礼しますね。引き止めてしまって申し訳ありません。……良かったら妹さんに、王子のワガママを聞いてくれてありがとうと伝えてもらえますか?」

「もちろんです! 部屋に戻ったら真っ先にエレーナへ伝えますから。お心遣いありがとうございます」

 水月が恭しく一礼をして頭を上げた頃には、ルカは兵舎の奥へと歩いていた。
 横目で彼の背を見ながら、水月は息をつく。

(なんの狙いがあってオレに話しかけてきたんだ? 単なる気まぐれで話しかけてきたとは思えねぇし……まあ、これからも怪しまれないように気をつけないとな)

 改めて気を引き締めなければと一人頷くと、おもむろに荷袋を持ち上げて兵舎を出て行った。
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