グラデーションの夜
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「…おい、寝てんの?」
パチンと額を指で弾かれて、ハッとする。
辺りを見渡せば、ここはクーラーの壊れた彼の部屋。右手に缶ビール。シアーカーテンの奥は、都会のネオン煌く熱帯夜。
連日の激務でほんの一瞬、意識を飛ばしていた。飲み始めた時は橙と紺のグラデーションだった空が、すっかり闇色に染まっていた。
夢を払うように頭を小さく振って、温くなったビールに口をつけた。ちらりと見た彼は、当たり前だけど、幼さが消えた大人の男だ。
「それにしても、蒸すなあ」
その骨ばった指が、首もとに掛けられるのを見て息を呑んだ。
心臓の奥深くがざわめいた。
繰り返される感覚のデジャブ。
伏せられた視線がゆっくりとこちらに向けられた。