珈琲の香り
「……風花とは、幼馴染みだった。

子供の頃からいつも一緒で、あいつが隣にいることが当たり前だった。」


手を合わせたまま、静かに話し出す涼さんの声だけが辺りに響く。


何て悲しい声なんだろう?

今まで聞いたことのない涼さんの声。

胸が締め付けられる。

耳を塞いでしまいたい。

『聞きたくない』と叫び出したい。

でも、そんなことはできない。

どんなに辛くても、どんなに苦しくても、辛い過去を持った人を好きになった。

だから……

逃げ出すわけにいかない。

どんな言葉でも、どんな答えでも、ちゃんと受け止めなきゃ。



「……いつから好きになって、いつから付き合い始めたなんて、お互いにわからない。気がついたら愛し合ってた。

だから、おれは風花以外を好きになったことも、付き合った経験もない。

まあ、その点は樹。お前と一緒だ。」

「……結婚……されてたんですよね……?」

「ああ……高校を卒業する頃、風花が妊娠してな。

当然、親は猛反対。

そりゃそうだな。

幼馴染みでガキの頃から知ってるとはいえ、片や大企業の娘、俺はサラリーマンの息子。

釣り合いがとれなくてな。

それに、お互いに進学が決まってた。

それを諦めても、お互いに一緒に居たかった……」

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