珈琲の香り
そんなに強く結ばれた二人なのに……

神様は何て酷いことを……


「…結局、駆け落ちみたいな形で籍を入れて……。

そんな俺たちを一人だけ、味方してくれた人がいた。」

「蒼……くんですか?」

「いや。蒼はまだ子供だったから……

今の店の前のオーナー。

風花と俺はあの店のバイトでな。

……オーナーが引退するから、譲ってやるって。

金がないだろうから、少しずつ金は返せばいいって。

居抜きで譲ってくれて……」


「…アルバイト……してたんですか……?お金持ちのお嬢さんなのに……?」

「ああ。

世間知らずのお嬢さんでいたくないって言って。

気が強いって言うか、負けず嫌いって言うか。

突然バイトを決めてきて……

あん時の風花はすごかったよ。」


記憶の中の風花さんを追っているのか、微かに口許が緩む。


素敵な人……だったんですね。

すごく芯のしっかりした……

会ったことのない、これから先、会うことのできない、素敵な女性。

羨ましいくらい、涼さんに愛されて……

羨ましいくらい、涼さんを愛して……

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