珈琲の香り

それなのに……

今は冷たい土の下に……


｢風花が事故に遭った日…
俺の誕生日だったんだ……

籍を入れて、初めての誕生日。

風花が張り切っててな。

その買い出しに行ったとき……｣

｢……事故に……………？｣

｢相手は飲酒運転だった……

俺な……

あの日から死んだみたいに生きてきた……

そんなんじゃダメだ。

風花が悲しむ。

いろんな人に言われたよ。

だけど、笑うことも、怒ることすら忘れた。

自分の身内が死んだ、蒼ですら立ち直ったのに……

俺はどうしてもダメだった。

朝起きて、店を開けてコーヒーを淹れる。

機械みたいだった。

あの日……

樹が来るまで……｣



涼さんの顔がゆっくりと上がる。

その目にはもう涙はない。

何かを決めたような、強い灯だけが写る。