珈琲の香り
そう言いながら、涼さんがゆっくりと立ち上がる。

「俺はな、たぶん風花の事を忘れることはできない。

でも、少なくともお前と風花を比べることはしない。

こんな俺だけど、そばにいてくれないか?

幸せにする。

そんな風に断言はできない。

だけど…

そばにいて欲しいんだ。」


「涼さん…」



涼さんの目が、まっすぐに私を見つめる。

そんな涼さんの目を見つめながら、私は思い出していた。


子供の頃、両親が見ていたドラマ。

愛する人を失った女性に恋をした男性が、トラックの前に飛び出し、『僕は死にません。あなたが好きだから、僕は死にません』と叫ぶシーン。

子供の頃は『危ないな~』って思うだけだった。

どんなに好きでも、それはダメだよって。

そんなことしか思わなかった。


だけど、今ならわかる。


好きな人を失う怖さ。

もう二度と失いたくないっていう気持ち。

そして、そんな思いをした人に、もう一度同じ思いをさせたくないっていう気持ち。


人を好きになるって、本気で愛するって気持ち。


私にとって、本当の意味での初恋……

蒼君ではわからなかった、本当に誰かを愛する気持ち。

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