花嫁に読むラブレター

「いたっ」

 秋の山の匂いを運んだ風が店内に流れ込み、そんな余韻を楽しむ間もなく不穏な音が鳴った。ごん、と何かを強く打ちつけたような鈍い音に続いて、男性らしき人の短い叫び声。

 何事かと振り向いたマイアは、男性の姿を見て息をのんだ。
 どうやら額を強く打ちつけたらしい。

 少し癖っ毛の、ふわふわとした薄茶色の前髪の隙間から見える狭い額が、林檎のように赤くなっている。手でさすりながら、へらへらと笑みを浮かべて店内に入ってくる青年を、マイアは一度だけ見たことがあった。

 白いシャツの上から着ている若草色のベストが、彼の柔らかい雰囲気によく似合っている。指輪もブローチも、輝きを放つ装飾品は一切身に着けていないというのに、彼から放たれる上品さは隠しきれるものではない。マイアが彼を知っているからそう思うのだろうか。

 以前会ったときも、同じ格好で同じ笑顔だった。けれど、上品だとか、高尚な方だとか、そんなこと微塵も感じなかったのに。

「あ……」

 マイアが思わず漏らすと、青年はすかさずマイアの隣に駆け寄った。

「マイアさん。偶然ですね、お買いものですか?」
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