花嫁に読むラブレター
「ちょっとカーヤ。汚いって失礼ねえ。ここは私の家だってこと忘れていないかしら?」
フィーネの言葉に、カーヤが慌てて背筋を伸ばす。彼女の視線が、狭い水槽の中に生きる魚のように泳いでいた。
「えっとぉー……、言葉の綾というものであります奥様。だって、わたくし、ここで寝起きだってできちゃいますよ!」
カーヤは言いながら、本当に厨房の床に寝転がろうとするところを、フィーネが慌てて制した。
「ちょ、ちょっとカーヤ! 落ち着きなさい、ほら、いいからそんなところで寝ない!」
そうですか? と体を起こしたカーヤを見て、フィーネは深い息を吐いた。カーヤの太い編み込み髪がほどけている。床で横になったときに、結っていた紐がはずれてしまったのだろう。自分の髪が背中でふわふわと揺れているのに気づいたカーヤは「あああああっ、か、髪がっ」と必要以上に慌てていた。腰を屈めて床を探し回るカーヤの眼鏡が、見事にずれおちそうになっている。
再びフィーネのため息が聞こえてきたところで、レナータが落ち着いた様子でフィーネに声をかけた。
「奥様、厨房に御用ですか?」