花嫁に読むラブレター

 屋敷に招かれた楽師たちが、それぞれの楽器を手にして、音楽を奏でている。歌はなく、どことなく異国風の華やかでいて懐かしさを感じさせる旋律が、庭園を囲む。音楽を聴きながら、思わず音に合わせて身体が弾む、そんな楽しさにマイアは浸っていた。

 マイアは不思議だ、と思う。

 聞き馴染みのない旋律は、初めこそ驚きもしたが、それも次第に心地の良い好奇心に変わった。少しずつ音にも慣れ、次は音程があがるのかしら、次の音節は少しゆっくり流れるのかしら、と予測するのも楽しかった。そうして、この音楽の背景にはどのような物語があるのだろうと、考え始めたら周りの景色が見えなくなった。

 身体中を巡る血の流がゆっくりになったかのようで、とても穏やかな気持ちでいられた。

 朝いちばんに、マリーおばさんやブラウンおじさん、それに施設の子供たちが屋敷に訪ねてきた。続いて料理を作ってくれている職人さんや楽師さんら、昼ごろになると、今度は見るからに高そうな衣装を風にゆらめかせながら、お城の関係者だという人たちが湧いたように訪れてきた。

 誰かに自分を紹介されたり、逆に自ら名乗りをあげるというような出来事はなかったが、それでも人が多い場所に行く機会が滅多になかったマイアは落ち着かなかったのだ。街の中を歩いている人の何倍――いや、何十倍という人たちの中で、息がつまりそうだった頃、楽師たちの音楽が流れてきたのだ。
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