花嫁に読むラブレター
ユンの手を受け取り立ち上がると、ユンが目で庭園の奥を指示した。人の手があまり加えられていない、森のような場所である。マイアが一人になりたいとき、よく訪れる場所だった。アルヴィオン家に馴染めず悶々とした思いを抱いているとき、手伝いをしに行ったはずの厨房で、積み上げてあったお皿を全て落としてしまったときなど……。きっと、この場所に心が宿っていて、記憶というものがあるのなら、マイアのことを見つけてあいさつをしてくれるだろう。「やあ、また来たね」と。そして、マイアはきっと一方的に喋って、相手を困らせるのだろう。もしかしたら、屋敷の誰よりも仲良くなれるかもしれない。
「この場所はぼくのお気に入りなんだ。小さい頃はね、よく父に怒られて泣きながらここに隠れてたりした。……マイアさんの、あの湖みたいなものかな」
ユンは照れくさそうに耳の下をかいた。
そうして、ユンは切り株の腰かけにマイアを勧め、マイアが座ったのを見届け自分も腰をおろした。
間を置かず、何かをいいかけたユンの笑顔が突然凍りついた。
開いた口を固く結び、穏やかなユンが珍しく、表情に怒りを浮かべている。眉間に皺を寄せたまま、ユンはマイアの顔から視線をそらさず言った。
「――マイアさん、誰かになにかされたり言われたりした?」