花嫁に読むラブレター

 お年寄りの話を聞きながら、家の奥でマイアが夕飯の支度をする。汁の香りに、また患者の老人から会話が広がる。「いい奥さんだ」と言われユンは微笑む。そんな日常を思い描いていた。だが、それも叶わないかもしれない。

 自分の思いは何ひとつ伝えず、マイアを手放した。

 後悔している、なんて思うにはおこがましすぎるほど、ひどい言葉を投げた。

 鼻の奥がつん、と痛くなり、目頭が熱くなる。

 あ、泣きそうだ。そう思った瞬間、耳が痛くなるほど大きな、カーヤの声が部屋中に響いた。

「こらあああ! 男の子が泣くんじゃなあああーいっ!」

 カーヤの人差し指が、力いっぱいユンの額に突き刺さる。ぐりぐり回しながら、鬼のような形相でユンを睨んだ。

 小さな頃から、ユンが泣きだすと、いつもこうやって叱りつけてきた。初めてやられたときは、どんな叱り方なんだろうと思ったものだが、意外にもこれをやられるとぴたりと涙が止まる。しゃっくりを止めるために、人を驚かせる方法を取る人もいると聞いたとき、思わずカーヤの人差し指を額に感じた。そうか、あれは驚かせておいて、涙を止めようとしたのか、と。だが、大人になって実際やられると、そうではないのかもしれないと思う。カーヤのただの思いつきであって、そんな裏があるとは思えない。それがわかっていても、涙が止まってしまうから不思議だ。

 思わず笑みがこぼれた。
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