花嫁に読むラブレター

「なんで泣いてるの?」

 声がおかしそうに笑った。

 昔、欲しくてたまらなかった優しさが、声に滲んでいる。あんなに不機嫌に、無表情だった彼は随分と柔らかくなって戻ってきた。自然な笑顔が、彼の顔に貼りついている。

「……ステイル、だって、あなた死んだって……」

「失礼だな。生きてるよ。ほら」

 そう言って、マイアの腕を掴むと、震える指先を自分の胸に当てた。どくどくと、血が流れる音。鼓動が、ステイルの中を走っている。ちゃんと、生きている。

「でも、なんで……?」

「死にかけた。でも助けてもらったんだ。今はその人のところで生活をしている」

 マイアの腕を下ろし、寝台の隅に自分も腰を掛ける。

「アルヴィオンからずっと離れた国にいる」

 ステイルはマイアを見下ろし、真面目な顔で言った。

「マイア。――僕と一緒に暮らさない?」

 ステイルの顔が近づき、マイアの真上にきた。影がマイアを覆う。


 綺麗な瞳。


 どんなときでも、ステイルの目は輝きを失ったことがない。強い者の目だ。それを恐ろしく感じたときもあった。嘘を言えば、すぐに見破られ、ただ無言でマイアを見つめる。どんな叱咤の言葉より、マイアには堪えた。軽蔑の視線が、何よりも怖かった。

 あのときから、変わらない。
< 218 / 227 >

この作品をシェア

pagetop