花嫁に読むラブレター

「いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう、って書いてるんだよ。ご飯は毎日食べてるでしょ?」

 頷くレムを見て、多少の罪悪感に苛まれながらも、嘘ではない、と自分に言い聞かせる。日々の生活で、妻に感謝しているのは料理だけではない。目が覚めれば隣にいて、あいさつを交わせる環境に、何度も感謝した。

 本当のところは、妻が昔思いを寄せていた男性に対抗しての行動だった。

 内容を読んだことは一度もないが、定期的に律儀に妻に送られてきていた手紙の存在は知っていた。そのたびに、自分のもとを去っていくのではないかという恐怖。あのときの気持ちは、今でもたまに思い出す夜もある。彼女が気づいているのかはわからないが、そんな晩は、そっと手を握ってくれる。

 妻が、自分を選んでくれたと揺るぎない自信を持てたとき、手紙を書こうと思った。毎日欠かさず。彼女が受け取った手紙以上の枚数を、自分が筆を持てなくなるときまで書こうと。

 書き終えた手紙を丁寧に折り、封にしまったそのとき。家の入口のほうから娘の声が聞こえた。ヘレンの声はよく通り、彼女が家の外にいても場所がわかるほど。その声が、『パパー! おばあちゃんが来たよ!』と自分を呼んだ。

 レムの頭に手をのせ、言う。

「ママにお手紙渡そうか」

 書き終えたばかりの手紙をレムに手渡し、嬉しそうに頷く息子を見つめ自分も微笑んだ。
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