花嫁に読むラブレター
石段を下りて、いくらかも歩かないうちに馬車に乗り込むだろう。知らない場所にこれから向かうのだ。ステイルから離れて、ユンの隣でゆっくり歩調を合わせて歩いていくのだ。けれど、後悔は何もないのかと訊かれたら、きっとわからない。だって、誰にも未来はわからないのだ。明日には知っている誰かが病気に罹るかもしれない。もしかしたら今年の冬は冷害に襲われるかもしれない。マイアの代わりに街へ買い出しに行く途中、匪賊に出会ってしまうかもしれない。可能性を考えたらきりがないし、後悔しない日なんて、きっとない。日常のあれこれに後悔しながら、マイアはこれからもユンの隣で生きていく。
けれど、心残りは?
マイアは首飾りをぎゅっと握りしめて、ユンの顔を見つめた。
「――ユン。わたし、忘れ物をしたみたい」
「うん、取っておいで。ぼくはここで待ってるから」
視線を合わせていたユンには、もしかしたら気づいたかもしれない。丘の上に立つステイルの姿に。マイアの中にある、罪悪感に。
けれど、ユンは笑顔で頷くと、石段の途中で腰をおろした。