艶めきの標本箱



私は裾から手を離した。
パサリと僅かな音と共に、ワンピースは元のラインを描く。
フローリングを素足で歩き、窓辺まで椅子を運ぶ。
カーテンを揺らす風は熱気の中に冷たさを孕んでいる。






「お願い。
あなたに描いて欲しいの。」







白い金属の背もたれは優雅な蔦模様だった。
その椅子に私は浅く腰を下ろした。
膝から下をハの字に開いて、ワンピースとスリップの裾と一緒に捲りあげる。






「私の……この、脚。」








彼の視線が強張り、私の左太股を凝視する。

酷いものでしょう…。

私は薄く微笑ってみせたが、彼は微笑み返さなかった。







雨の日の夕刻。
偶然が重なった事故。
傘を差して自転車に乗っていた私は、車に気がつかなかった。
黒い塊が視界に飛び込んできて…その先に繋がる記憶は、病院のベッドの上だった。


私の脚は長時間に及ぶ手術を受け、歩くことは出来るようになった。
昔のように全速力で走ったりは出来ないけど、大人になった今の私にはそれ程不自由を感じることはない。




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