オリガク! -折舘東学園の日常的(恋)騒動-
おもむろに携帯を取り出したバンビ先輩に、「マジで見てなかったのかよ」と呆れたような言い方も腹立つ。
「まあ会えたからいいけど。ちょっと話あってさ、」
「――っ触らないで!!」
携帯を持つバンビ先輩の手に触れようとした男の手が、勢いよく振り払われた。確かな拒絶に、不釣り合いなほど澄んだドアベルの音が重なる。
「……えーっと、俺なんかすごい場面に出くわした?」
「ミヤテンッ!」
CobaCoから出てきた小柄な男に、バンビ先輩が抱き付いた。いや、飛び付いた。
「何、どうした、今度は何事? おい高遠ー……ひっ!」
あ? なんだこの野郎。
「トラ、顔。眼付け過ぎ」
ぼそっと言ってきたバクに、意識して眉間の皺を解く。
つーかこのミヤテンって男、見たことあると思ったら前にテラスでバンビ先輩といた奴だ。確か……深山。
記憶を探っている間、深山先輩は俺たち3人に目を遣り、状況を把握したのか、後ろで立ち往生していた奴らに先に帰るよう伝えていた。その途端、バンビ先輩は深山先輩の背に身を半分隠し、腕に手まで回したので、俺と多分チャラ男の心境はあまりよろしくない。
「えーっと。ちょっと聞こえちゃったんだけど、触るなって言われてた人? 高遠の元カレだよな」
は? 元カレ? 知らねぇ制服だとは思ってたけど……。
「別れて1ヵ月も経ってねえよ」
やっぱ他校の元カレか。
例の、バンビ先輩と別れてすぐ、新しい彼女と手を繋いでいたっていう。二股疑惑の。