ショコラ SideStory
「ええ。今年小学生になりました」
「わあ、そんなに大きなお子様が居るようには見えませんよー。ではクッキーはお子さん用で?」
「いえ、私用です。とても恥ずかしいんだけどメッセージを入れて欲しいの」
「ええ。どんなのがいいですか? 基本の文字はこんな感じなんですが」
見本表を見せると、彼女はモジモジしながらオリジナルメッセージ用の大きめのクッキーを指さして言った。
「これに、『結婚してください』って書いたりは……出来ます?」
「結婚……?」
思わず営業スマイルが飛んでしまった。
え? だって。
お子さんもいるのに?
よっぽど素っ頓狂な顔をしてしまったのか、彼女は苦笑すると言い訳でもするようにボソボソと話し始めた。
「私、シングルマザーなんです。今気になる人がいて。とても優しいし、彼ならきっと娘の父親にもなってくれるんじゃないかって。これが最後のチャンスかも知れないし頑張りたいなって思って。やあね、ジンクスに頼ろうだなんて」
「いえ。……すみません、家庭の事情まで聞き出すつもりじゃ」
「いいえ。私が勝手に言ったのよ。11月15日が娘の誕生日なの。その日にあの子にパパをプレゼントできたらって思ったのよ。ごめんなさいね。まだ二週間もあるのに。でも早めに頼んでおかないと決心が揺らぎそうで。……お願いします」
「は……い。では、お名前とご連絡先だけ教えて頂けますか」