ショコラ SideStory
「調べ物とかとても丁寧な人で。気がついたら好きになっていました。
学校が休みの日は娘を一緒に図書館に連れて行くことがあるんですけど、その時に彼が娘の相手をしてくれて。
……娘は凄く懐いてしまって。私も彼だったら……って思うようになったんです」
「クッキーを贈られる方ですよね。お付き合いされてどのくらいなんですか?」
宗司さんじゃありませんように、と祈り込めて聞いてみると、彼女は気まずいような表情で一瞬黙った。
そうして、恥ずかしそうに苦笑しながら告げる。
「お付き合いなんてしていないの。これから告白するんです。なのに結婚なんて大げさね、確かに」
「え?」
ちょっと待ってよ。
嫌な予感的中しちゃう?
見合いじゃないんだから、いきなり結婚前提の付き合いを申し込むとかやめてよ。
「私には娘がいるから。お付き合いイコール結婚だと思ってる。彼ならそういうのも含めて受け止めてくれるって信じてるんです」
「はあ」
そりゃ、信じるのは勝手だけれども。
実際どうなの?
そんな風に思い込まれたら重たいわよ。つか、怖いって。
「あ。彼なの。塾の先生」
その時稲垣さんが指さした先を見て、あたしはさすがに笑顔は作れなかった。
一年生の授業を終えた宗司さんが、子供たちに囲まれてる。
「お会計お願いします。早く迎えに行かなくちゃ」
「はあ……」
ダメよ。
宗司さんはあたしの彼氏だもん。
その場でそれが言えなかったことが、良かったのか悪かったのか分からない。
「応援してくださいね」
ダメ押しのような彼女の一言に、気分は沈むばかりだった。