ショコラ SideStory


仕事上がり間際の時間に、ぴらぴらと注文票を眺めながら親父は半眼であたしを見る。


「詩子、この注文お前出来るのか?」


稲垣さんのクッキーの注文票だ。
親父はどこまで気づいているのか、この注文にはやたらに探りを入れてくる。


「やるわよ。クッキーはあたしの担当でしょ?」

「でも『結婚』とか字画多いぞ。やる気ならちゃんと練習しておけよ」

「解ってるわよ」


解ってる。でも。
もしこのクッキーが宗司さんの手に渡ったらと思うとやる気がでない。

ちらりと親父とマサを見ると、話題はすでにクリスマスケーキのことになっている。
ナッツ入りクリームだどうだの、形がどうだの。

負けてられないわよ。
あたしにだってあるでしょプロ根性。


「……練習するわ」


してやるとも。
完璧なクッキーを作ってやるわよ。

あたしと宗司さんの絆は、ジンクスなんかで壊れたりしないんだから。


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