ショコラ SideStory
シングルマザーで必死に働いてきたんだろう。
小綺麗にしているけど正直疲れた感じは拭えなかった。だけど、それさえも母親の威厳のような気がしてくる。
あたしは自分で言うのもなんだけど容姿には自信がある。
だけど母親って、そういうのとは比べようのない何かがあるんだわ。
内面に宿る、今のあたしがどんだけ頑張ってもおそらく手に入れられないもの。
アイシングのコロネを調理台に投げ出して突っ伏した。
「……何負けた気になってんのよ、あたし」
自分の弱気が恨めしい。
どうしてこんな気持ちになるの?
*
そのままあたしは寝てしまったらしい。
カンカンカンという外階段の音に意識が浮上し、入り口の鈴の音で目を開けた。
「やだ、寝ちゃった。……つか、さぶっ」
基本調理中はあまり暖房を入れない。スイーツは熱に弱いから。
それでも寝入る前は営業中の店内からの温かさがあったんだけど、今は随分室温が下がっているようだった。