ショコラ SideStory

あたしはこんなに嫉妬深かっただろうか。

気がついたら背中から彼に抱きついていた。
明らかに動揺した宗司さんが、「あ、え?」と戸惑った声を上げる。


「あたしが冷たいと思うなら、宗司さんが温めてよ」

「え?」


手が震える。変なこと言ったから頭に血が上ってきたみたい。

でも見ないで。
そのクッキーじゃなくてあたしを見て。


「宗司さん、あたし」

「黙って、詩子さん」

「黙らない。いいから下がっててよ」


見ないで。彼女の恋心の証。
それを形にしているのがあたしだなんて。

……ああやっぱり、意地なんかはらずに断るべきだったのかしら。

あたしは、プロになりきれてない。
宗司さんに告白するためのクッキーなんて、つくりたくないよ……。


「これはあたしの仕事……」

「黙れって」


叫ぶような声に、飛んでいきそうな意識が引っ張り戻される。

宗司さんはあたしの額に手を載せ、大きくため息をついた。


「やっぱり」

「え?」

「熱があるよ、詩子さん。なんでこんな寒いところにいつまでも残っているのさ」


彼は無理矢理あたしを引き剥がし、休憩用の丸椅子に座らせると、調理台を片付け始めた。

と言っても、宗司さんは正規の社員じゃないし、片付ける場所なんかは適当だったけど。


明日、親父が困るだろうな。
でも仕方ないわ。座ってみたら確かに頭もぼーっとするし。

潤んだ視界の中をせわしなく動く彼。

黙れ、なんて初めて言われた。

怒ってる時はなんだか格好いいじゃない、なんてトンチンカンなことを思った。


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