ショコラ SideStory


 気がついたら彼の背中で揺られていた。


「……あれ?」

「あ、気づいた? 悪いなとは思ったけど鞄の中探って鍵出したよ? マスターも康子さんもいないみたいだから」

「え? あ、家だ」


あたしは宗司さんにおぶられたまま家の玄関にいた。
ショコラを出た記憶もないくらい深寝してしまったらしい。


「店の方も一応鍵は締めたよ。このまま休むなら部屋まで運ぶけど」

「あたしの部屋は二階よ。おんぶして登るとか自殺行為」

「そんなことないよ。詩子さんは軽いし」


宗司さんはそう言うと、靴を脱いで家に上がり込んだ。
玄関と階段の電気をつけて、トントンと軽快に上っていく。

ああなんだか。
今日の宗司さん、男らしいなぁ。

広い背中は温かいし、触れてるだけでキュンとする。

小さな女の子を一人で育ててきた彼女が、彼に恋心を抱くのは分かるような気がする。
宗司さんは暖かくて優しいから。

でも。


「……ないで」

「何か言った? 詩子さん」


彼女に告白されても、揺らがないで。
あたしのことだけ、ずっと見てよ。


「……ううん」


でも言うのは、なんだかフェアじゃない気がした。

彼女の恋をあたしに止める権利ってある?
でもフラれるのを願ってクッキー作るのも違う気もする。

ああもう、頭がグルグルする。
目も回りそう。


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