ショコラ SideStory
壊れ物を扱うようにベッドにそっと落とされた。
正面を向いて、あたしの姿勢を直してくれた彼は、上から布団をかけて額に手を置く。
「まだ熱い。ゆっくり寝ないと、詩子さん」
「うん。迷惑かけてごめんね」
「迷惑なんかじゃないよ。実はドキドキしてる。詩子さんの部屋に入るの初めてだし」
「やあね、見ないでよ」
でも、あたしはズボラではない。
掃除は好きだし、結構綺麗にはしていると思う。
「マスターが帰るまでそばに居ていい?」
「帰ってきた親父に殺されるわよ」
「それでもいいよ。こんな時に詩子さん一人にできないよ」
彼の声は優しく、頭を撫でる手も温かい。甘えたくなる。
あたしが思うくらいなんだから、小さな女の子がこんなふうに優しくされたらそりゃ懐くに決まってるわ。
お父さん、欲しいだろうな。
あたしだって片親だった期間があるから、わからないわけじゃないわ。
ましてあんなに小さいんだったら……。
嫌だ。
何考えているの、あたし。
不安で涙が出そうになるとかあり得ない。
「詩子さん? 苦しい? 何か飲み物とかいる?」
乙女チックな自分が嫌で、あたしは泣きそうな声で告げた。
「……宗司さんの漬物が食べたいわ」
「漬物?」
素っ頓狂な声が返ってくる。そりゃそうだわ。