ショコラ SideStory



 そして、11月15日。親父はあたしを出来るだけ厨房にいさせるようにしていた。
マサは店内をてんてこ舞いに走り回っていて、ちょっと可哀想なくらい。

 やがて、稲垣さんが取りに来て、親父は自分でクッキーを渡していた。
これから、宗司さんに渡すのかな。そう思うといつもの営業スマイルも陰る。

彼女がどういうふうに彼に告白したのか、あたしは知らない。

だけど、その夜。
宗司さんが塾の時間が終わっても全然降りてこないから、あたしはそろそろと内階段から上がっていった。


「宗司さん、いる?」

「え? 詩子さん?」


反射的に振り向いた彼は、酷く傷ついた顔をしていたから。
あたしは猫のように彼に擦り寄る。

背中にピタリとくっついて、ただ黙って彼のお腹に手を回した。

そうしたら彼は、力が抜けたようにその場にへたり込む。


「……マスターと喧嘩してた原因分かった」

「そう」

「詩子さん、あのクッキーを作るつもりだった?」


そうよ、と言ったら、あたしは彼に軽蔑されるのかしら。

親父があんな風に言わなかったら、たぶん納得出来ないまま作っていたと思う。


「そうね。あたしの仕事だって思ったし。……でも、知恵熱出るくらいには悩んでいたのよ?」

「詩子さんが作ったらうまくいっちゃうのに?」


それはジンクスよ。
あたし達、ジンクスに負けるほどやわじゃないでしょ?

笑って言い返したかったけど言えなかった。


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