だってキミが好きだった








やんちゃで済んだらどんなに良いことか。






「……でも今は本当に落ち着いてるよ」


「そうじゃないと困りますよ」


「そうだね」






ははっ、と。


楽しそうに笑うマスターを見て私も自然と笑顔になる。



あれだけ緊張してたくせに、もうその緊張も解れてるなぁ。



マスターは本当に凄い。



落ち着ける。



なんだかもう一人の……お父さんみたいだ。








「千歳くんとはいつから会ってないんだい?」


「えっと……半年前、ですかね。電話は何回かしたんですけど……」


「へぇ。……半年前、か」







ドクン。


“半年前”


そのワードを聞いただけで、胸が締め付けられる感じになる。




忘れられない。





半年前の出来事だけは、どうしても忘れられない。







「……最初聞いた時は何がなんだか分からなかったよ。理解し難かった」


「……」






まるで前のことを思い出す様に細められるマスターの目。




その目をみただけで私の胸がもっと締め付けられる。





私とマスターとの間に静かな空気が流れた。




お互い何も発さない。







――カラン、カラン。






そしてその空気を破ったのは、綺麗な鈴の音だった。









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