だってキミが好きだった
「わりぃ、遅れた」
鈴の音に釣られて後ろを向けば、ダルそうに中に入ってくる男の姿が目に映る。
全く悪いとは思ってない様に見えるのは私だけだろうか。
いやきっとマスターも思ってる筈。
「よー、元気だったか菫チャン」
私の隣の席にドスッと座り、ヘラリと笑う男。
その笑顔、変わらないなぁ。
いつぶりだろう。こうして会うのは。
久しぶりなのは確かだけど。
どうしよう、緊張するな。
「お久しぶりです、千歳さん」
緊張は見せない様に嫌そうな顔を千歳さんに向けてそう言う。
私の顔を見た千歳さんは頬杖を突いて苦笑をしていた。
「千歳くん、私には挨拶はないのかい?」
「わりぃわりぃ、今日はありがとなマスター」
呆れた様に笑うマスターに千歳さんはそれだけ言ってクシャクシャと私の髪を乱す。
「オマエ相変わらずミルクセーキか。可愛い可愛い」
痛……くはないけど、ボサボサになるから乱すのはやめて欲しい。
でも言い難いな。
まだ緊張してる。