だってキミが好きだった
「電話してもオマエ、俺が“会おう”って言う前に切るだろ。オマエ感じやすいからなそういうの。だから悠に頼んだ。“強制的”に来させるように、な」
他人からだと、聞くだろオマエ。
ニヤリと笑ってそう続ける。
千歳さんの罠にハマってしまった、ってことか。
……悔しいな、なんか。
「“会おう”って言う前に切る、って……。千歳さんが分かりやすいんですよ」
「お、反抗か?」
「違います」
「素直じゃねぇな、菫チャン?」
「……」
ムカつく。
千歳さんは昔からこうだ。
フイッと千歳さんから顔を反らせば「可愛い可愛い」と言う千歳さんの声が聞こえてくる。
あーもうやだ。この人。
「……一先ず、私は席を外すよ。その方がいいだろう?千歳くん」
「あぁ、すまねぇなマスター」
「千歳くんが謝るなんて、明日は何か降ってくるんじゃないのかい?」
「降らねぇよ。マスター、俺は礼ぐらい言う」
「そうかい?」
「あぁ」
「……ははっ、知ってるよ」
我が子を見る様に優しく微笑むマスターを見て、千歳さんはフッと笑いを零す。
チラリと千歳さんを見てみれば、黒縁のダテ眼鏡の奥にある目が優しく細められていた。