だってキミが好きだった
いつも嘘笑いばかりして他人と接していた千歳さんが、本当の笑顔で話せる相手。
それは千歳さんが心から信頼し、認めてる相手だけだ。
私にもそうやって接してくれてるけど、マスターにもそう。
「それじゃあ、私は行くよ。また何か用があったら呼んでくれていいからね」
最後にもう一度優しく笑って、マスターは私達に背を向け、奥の部屋に入っていく。
私達の間にまた沈黙が訪れた。
……千歳さん、私に言いたいことあったんじゃないのかな。
まだ残っているミルクセーキのコップを手に取り口に運ぶ。
口の中に広がる甘い味は、やっぱり美味しい。
チラリと横目で千歳さんを見てみれば、うーん、と頭を抱えていた。
……きっと、どうやって言えば良いのか分からないだとか。そういう感じだ。
――仕方ない。
コトン、とコップをテーブルに置き、体を千歳さんの方へ向ける。
それに気付いた千歳さんは不思議そうに茶色のカラコンが入った目で私を捕らえた。
彼も千歳さんも、……不器用だな。
「千歳さん、私に話しがあるんでしょう?何ですか?」
そう言えば、パチクリと驚いたようにまばたきをする。
大方私から話して来るとは思ってなかったんだろう。
さっきちょっと不貞腐れちゃった感じになったからな、私。
でも千歳さんは不器用だから…あの場面ではきっと私から話しかける方が良かったに違いない。
ジッと千歳さんを見れば、千歳さんはまばたきをやめて。
そして私の考えていたことが分かったのかフッと優しく笑った。