だってキミが好きだった
《菫、一度で良い。一度で良いから……アイツに…千早に。会ってくれねぇか?》
「もし千歳さんがあの時私にあぁ言ってくれてなかったら……私は彼に会ってなかったです。……まぁ、会ったって言っても“本来の私”の姿で会ってはいませんが」
「……変装、ってことか?」
「はい、まぁ」
苦笑いでそう答えれば、千歳さんは無言になる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「あの時はただ、無我夢中だっただけだ」
「それでもです」
「違う」
「……頑固ですね。じゃあこう言えば良いですか?」
はぁ、と思わず出た溜息。
千歳さんのことだ。
きっと私が何度千歳さんのお陰だと言っても、反対し続けるだろう。
さっき千歳さんが言った通り、千歳さんは“無我夢中”で、自分の為だけで私にそう言ったんだろうから。
きっと“自分の私情を押し付けただけ”って考えてる。
でもね、千歳さん。
私が千歳さんの言葉に背中を押されたのは事実なんだ。
「私はその“無我夢中”だった千歳さんの言葉に背中を押されたんです。
千歳さんは別に私の背中を押したつもりは無くても、私は押された。
……だから、ありがとうございます」